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2026/08/28 07:07:08

新潟県長岡市で1548年に創業し、約480年にわたって酒造りを続けてきた吉乃川が、ブランドを大きく刷新する。
2026年9月3日、JR長岡駅から徒歩約1分のホテルニューオータニ長岡「白鳥の間」で「吉乃川 リブランド発表会」が開催された。
会場では、新たなブランド戦略をはじめ、企業理念、ロゴ・シンボルマーク、商品体系、ラベルデザイン、酒質設計、品質管理への取り組みなどを発表。第2部では、新商品と料理を組み合わせたペアリング試飲会も行われた。
発表会の司会はNST新潟総合テレビの桶屋美圭アナウンサーが務めた。
目次
最初に登壇した吉乃川株式会社 代表取締役社長の峰政祐己氏は、今回のブランド刷新について、その背景から説明した。
吉乃川は1548年から長岡で酒造りを続けてきた。しかし峰政氏は、単に歴史が長いことだけに価値があるのではなく、時代ごとの暮らしや食卓と向き合いながら酒を造り続けてきたことに価値があると話す。
今回のリブランディングで大切にした考え方が、
「変わらないために変わる」
という言葉だ。
時代が変われば、人々の暮らしや食との付き合い方も変わる。本当に守りたいものを次の時代へ残すためには、造り手自身も変化する必要があるという考えだ。長年支持されてきた看板商品の見直しも含め、単にパッケージを新しくするのではなく、吉乃川らしい酒とは何かをあらためて問い直した。
背景には、日本酒を取り巻く環境の変化もある。
食生活が多様化し、酒類の選択肢も増えたことで、日本酒は以前ほど日常の食卓で当たり前の存在ではなくなった。一方で、日本酒の品質向上や高付加価値化、海外からの注目など、その価値が再評価されている側面もある。
峰政氏は、日本酒愛好家だけでなく、これまで日本酒に馴染みがなかった人にも「日本酒って意外と美味しいんですね」「こんな日本酒だったら飲んでみたい」と感じてもらえる入口を増やすことが重要だと語った。
続いて登壇したのは、吉乃川株式会社 代表取締役常務の川上将司氏。発表会では20代目次期当主として紹介された。
川上氏が吉乃川らしさを一言で表現した言葉は「やさしさ」だった。
特別な日だけではなく、普段の食事や仕事を終えた後、家族や友人と過ごす時間など、何気ない毎日に寄り添う酒であること。その一杯によって、いつもの食事や時間を少し豊かにすることが、吉乃川が受け継いできた価値だという。
今回、その考えを
「お酒づくりを通じて、すべてのひとの豊かな毎日を醸しつづける。」
という理念としてあらためて明文化した。
そしてブランドメッセージとして掲げるのが、
「毎日を、こんこんと、やさしく。」
という言葉だ。
飲む人だけでなく、酒を造る人、届ける人、販売する人、地域の人々など、吉乃川に関わる人たちの毎日まで含めた理念となっている。
ブランド刷新に合わせ、吉乃川は自らが目指す味わいについても再定義した。
その言葉が「美味淡麗(びみたんれい)」だ。
これまで受け継いできた新潟淡麗辛口の良さを土台としながら、現代の食卓に合う吉乃川らしい味わいへと再設計した。
「美味淡麗」は、きれいな酒質を基調に、上品な甘み、穏やかな酸、旨味が調和し、心地よい余韻を残しながら最後はクリアに収束する味わいを指す。
商品も「至高の酒」「特別な酒」「日々の酒」「原点の酒」の4つの役割に整理。そのすべてを「美味淡麗」という一本の軸につなげ、どの商品を選んでも吉乃川らしさを感じられる体系を目指した。
中でも今後の主力となるのが「日々の酒」だ。
ここには、クラシックな方向性の「清流美」と、モダンな方向性の「渓流美」という2つの商品ブランドを展開する。
清流美は、これまでの淡麗さを受け継ぎながら、米の旨味やコク、食事との馴染みを重視。一方の渓流美は、みずみずしさや軽快さ、ジューシーさを意識し、洋食を含む現在のさまざまな食卓にも合わせやすい設計とした。低アルコールやスパークリングの商品も用意し、日本酒に馴染みの薄い層にも選びやすくする。
味だけではなく、ブランドの「顔」も大きく変わる。
ブランドデザインを手掛けた株式会社カナリア 代表/クリエイティブディレクターの徳田祐司氏は、新しいデザインの根幹を、
「吉乃川は川である」
と表現した。
小さな水が集まり、一筋の川となり、山や野を通りながら大河へと育っていく。その姿を人生や日々の積み重ねと重ね、吉乃川が毎日の豊かさに寄り添う存在であることを表現したという。
新しいシンボルマークや商品ラベルにも「川」の流れを採用。ブランドカラーには、深さと透明感を持つ青を用いた。
日本酒だけでなく、焼酎や梅酒、ゆず酒、水などにも世界観を展開し、商品ラベルから長岡駅の広告、駅前看板、ウェブまで、一貫した「吉乃川らしさ」を表現していく。
酒質を実際の酒造りでどう実現したのかについては、藤野正次氏と、製造顧問の石渡英和氏が説明した。
藤野氏が今回の酒造りで目指したのは、まったく別の酒を生み出すことではない。
「吉乃川らしいお酒を、これまで以上に吉乃川らしくする」
ことが出発点だったという。
料理にそっと寄り添い、米の旨味や甘みを感じながらも最後はきれいに流れていく。料理を一口食べれば、もう一度酒を口にしたくなる。そんな食中酒を目指した。
その品質を安定させるため、蒸し米の温度をより細かく管理する冷却設備や、酒への負荷を抑えて送るサニタリーポンプなども導入。冷蔵瓶貯蔵設備も強化している。
一方で藤野氏は、設備そのものが酒を造るわけではないことも強調した。
蔵では毎朝、発酵途中の酒の香りや見た目、発酵する音まで確認し、前日との小さな違いを感じ取りながら管理しているという。
設備は、人が目指す品質をより安定して再現するためのものという考えだ。
製造顧問の石渡英和氏は、かつて国税当局で酒の品質評価や醸造技術の指導に携わってきた人物。
今回、第三者の立場から吉乃川の酒を客観的に利き酒し、全国の酒と比較しながら「吉乃川らしいおいしさ」を整理したという。
石渡氏が挙げた特徴は、「きれいなだけでなく、きちんと味がある」「香りが料理から離れすぎない」「飲み続けられる」というもの。
米由来の甘みや旨味を持ちながら重く残らず、最後はきれいに余韻が消えていく。さらに香りだけが突出せず、料理と一緒に飲むことで味わいが完成していく点を評価した。
発表会の第2部では、実際に新しい吉乃川を味わうペアリング試飲会も実施された。
提供されたのは、
「清流美 純米吟醸」
「渓流美 純米」
「明の流 純米大吟醸」
の3種類。
会場にはそれぞれの酒に合わせた酒器が用意され、ホテルニューオータニ長岡による和洋の料理とともに試飲した。
料理はイチジクとリコッタチーズのミント風味やサーモンのカルパッチョ、白海老の唐揚げ、イカ塩辛など。伝統的な和食だけでなく、チーズやオリーブオイルなどを使った洋食も組み合わせている。
これは単なる試食ではなく、「現代の食卓に合う酒」を掲げる今回のブランド戦略を、そのまま体験する構成でもあった。
現在の家庭の食卓には、和食だけでなく洋食、中華、パスタ、チーズ、オリーブオイルなどさまざまな料理が並ぶ。石渡氏も、こうした食の多様化は日本酒にとって大きな可能性だと説明している。
吉乃川が目指すのは、酒だけで強烈な個性を主張するのではなく、料理と行き来しながら自然と杯が進み、食卓全体を豊かにする酒だ。
新しい商品は9月11日から蔵出しを開始し、9月15日頃から順次店頭で販売される予定。
創業1548年。
約480年続いてきた吉乃川が今回見直したのは、ロゴやラベルだけではない。
理念、味わい、商品体系、デザイン、酒造り、品質管理、そして消費者へ届ける方法までを、一つの考え方でつなぎ直した。
その中心にあるのは、発表会で繰り返し語られた、
「変わらないために変わる」
という言葉だ。
伝統を残すために、その時代の食卓に合わせて変化する。
新たな「美味淡麗」を掲げる吉乃川が、これからの日常の食卓でどのように受け入れられていくのか注目したい。
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